子どものローマ字プリントを見て、「あれ、しって si だったっけ shi だったっけ」と迷ったことはないでしょうか。実はこの答えが、去年の暮れに変わりました。2025年12月22日、ローマ字のつづり方を定めた内閣告示が約70年ぶりに改定され、ヘボン式が基本になったのです。
ニュースとしては少し地味な扱いでしたが、小学3年生の子がいる家庭には地味に効いてきます。上の子と下の子で、習う書き方が違うということが起こるからです。何がどう変わったのか、整理しておきます。
si・ti・tu から、shi・chi・tsu へ
変わったのは、かなをローマ字にするときの基本の形です。これまで学校で最初に習っていたのは「訓令式」と呼ばれる書き方でした。それが「ヘボン式」に入れ替わりました。
差が出るのは、次のところです。
- し … shi(まえは si)
- ち … chi(まえは ti)
- つ … tsu(まえは tu)
- ふ … fu(まえは hu)
- じ … ji(まえは zi)
- しゃ・ちゃ・じゃ … sha・cha・ja(まえは sya・tya・zya)
「ふじ(富士)」で言うと、これまでの huzi が fuji になった、ということですね。パスポートや駅名標、道路標識でずっと使われてきたのがヘボン式ですから、街で見かける表記のほうに、学校が寄ったと考えると分かりやすいと思います。
いつから変わったのか
時系列はこうです。
- 2025年8月20日 … 文化審議会が「改定ローマ字のつづり方」を答申
- 2025年12月22日 … 内閣告示で改定。同じ日に、小学校学習指導要領解説(国語編・外国語活動/外国語編)も更新
- 2026年度(令和8年度)… この年度からの指導が、ヘボン式を基本に
つまり、今年度の3年生はすでに新しいほうで習っています。教科書会社も「令和8年度以降のローマ字指導について」という資料を出していて、現場はもう切り替わっている、という状況です。
訓令式は「間違い」になったのか
ここが、親としていちばん気になるところだと思います。答えはなっていません。
改定を伝える会見で、松本文科相は「すでに定着している表記などについては直ちに変更を求めるものではない」と述べています。基本がヘボン式に変わっただけで、訓令式で書いたものが誤りになったわけではありません。
実際、キーボードのローマ字入力では si と打っても shi と打っても、同じ「し」が出ます。ここを知らないまま「学校で習ったのと違う」と言われると、子どもは自分の入力を間違いだと思ってしまう。2つあると知っていること自体が、つまずきを1つ減らします。
「っ」「ん」「のばす音」はどうなる
細かいところも見ておきます。ここは大きく変わっていないので、身構えなくて大丈夫です。
小さい「っ」は、これまでどおり次の音の字を重ねます。「がっこう」は gakkou、「きって」は kitte。「ざっし」は zasshi になります(重ねるのは s のほうなので、zashshi ではありません)。
「ん」は n のままです。b・m・p の前でも n でよく、「えんぴつ」は enpitsu。ただし、あとに母音や「や行」が続くときは、そのままだと区切りが分からなくなります。「ほんや」を honya と書くと「ほにゃ」と読めてしまうので、honnya か hon'ya のように書き分けます。
のばす音は、現代仮名遣いのとおりに母音を並べて書いてかまいません。「がっこう」は gakkou、「おとうと」は otouto。長音記号(ō)を使う書き方もありますが、ふだんの語なら記号なしで母音を並べるほうで大丈夫です。
ひとつ注意点として、パスポートの氏名表記はまた別のルールです。長音を書かない、b・m・p の前は m にする(難波=NAMBA)など、今回の改定とは扱いが違います。「パスポートもヘボン式だから同じはず」と考えると食い違うので、そこだけ切り分けておくと安心です。
家で気をつけること
いちばん起こりやすいのは、きょうだいで習った書き方が違うという状況です。今の3年生はヘボン式、去年ローマ字を習った上の子は訓令式。親世代はもちろん訓令式です。
このとき「そっちは間違いだよ」と言ってしまうと、どちらの子にとってもよくありません。「決まりが変わって、今はこっちが基本。前のほうも間違いじゃない」と説明できると、それだけで話が丸くおさまります。
テストで書くときは、今の教科書で習った書き方=ヘボン式を使うのが基本です。迷ったら教科書の表を見るのがいちばん確実です。
2つあることを、遊びながら覚えられるツールを作りました
この「2つある」を子どもに伝えるのが、口頭だと意外に難しい。表を渡しても、表は眺めるだけでは身につきません。
そこで、無料のローマ字アプリ「ローマ字修行」を作りました。改定に合わせて中身も入れ替えてあります。
- ローマ字を よむ … ヘボン式と訓令式の両方が混ざって出るので、どちらの表記も読めるようになります
- キーボードで うつ … 実際に入力します。どちらの書き方でも正解にしてあります
- ふたつの かきかた … 「し」を見せて、今習う書き方はどっちかを2択で。答え合わせで毎回、2つある理由の一文が出ます
かな・いま(ヘボン式)・まえ(訓令式)の対応表も、画面の下にずっと出しっぱなしにしてあります。迷ったら下を見れば確かめられる形です。登録もインストールもいらず、ブラウザを開くだけで無料。成績もどこにも送っていません。
変わったことを知っているだけでいい
ローマ字の書き方が変わったと言っても、生活が変わるわけではありません。ただ、子どもが「学校ではこう習った」と言ったときに、親が「前はこうだったんだよ、決まりが変わったんだね」と返せるかどうかで、その子の受け取り方はだいぶ変わります。
70年ぶりの変更に、たまたま立ち会っている学年がある。そう思うと、少し面白い出来事でもあります。