日曜の朝、息子が国語のドリルを広げていました。小学1年生の2学期、ちょうどカタカナを習い終わったころです。問題は「つぎの ことばを カタカナで かきましょう」。並んでいたのは、ぱん、てれび、らんどせる。
息子は鉛筆を止めて、こっちを見ました。
「これ、なんでカタカナなの?」
いい質問でした。「外国から来た言葉だからだよ」と言いかけて、口の中で止まりました。じゃあカブトムシは。タンポポは。あれも外国から来たわけじゃないのに、図鑑ではカタカナで書いてあります。説明しようとするほど、自分の中の線引きが怪しくなっていく。教える側が先にぐらついているのを、子どもはたぶん見抜いています。
息子は「ぱん」と書いていました。それまでずっと、そう練習してきたからです
ひらがなの練習帳をめくると、思い当たることがありました。「ぱん」も「てれび」も、ひらがなの書き取りで何十回も書いてきているんです。マスを埋めて、丸をもらって、その形で覚えている。それが急に、ある日から「カタカナで書きましょう」に変わる。
これ、けっこう理不尽じゃないですか。字を覚えるだけでも大変なのに、今度は「どの言葉をどっちで書くか」という別のルールが上から乗ってくる。しかも、そのルールは練習帳のどこにも大きく書いてありません。
息子は間違えているというより、教わった通りに書いていただけでした。バツがついたのは字の形ではなく、判断のほうです。
つまずいているのは字ではなく、言葉の見分け方でした
カタカナのドリルは、たいてい「字を書けるようにする」ためにできています。ソとン、シとツを正しく書き分ける。それはそれで必要です。でも、テストで点を落とすのは、字が下手だからではありませんでした。
「ぱん」を見て、これはカタカナで書く言葉だ、と気付けるかどうか。ここだけが抜けている。
QAの仕事をしていると、こういう場面によく出くわします。バグが出たとき、画面の見た目を直しても、判定のロジックがそのままなら同じ現象がまた出る。息子のドリルも同じで、カタカナの字を100回書かせても、見分けがつかなければ次の単元でまた止まります。直すべき場所が違う、という感覚だけははっきりありました。
とはいえ、親が横についてひとつずつ教えるのは、正直しんどい。さっき自分が「カブトムシ」で詰まったばかりです。それなら、判断だけを何度も試せる場所を作ればいい。そう思って、ツールを作りました。
1回10問。ゲームのつもりで触れる「カタカナ修行」にしました
作ったのは、カタカナ練習アプリの「カタカナ修行」です。どの言葉をカタカナで書くのかを判断する、無料のWebアプリです。
やることは、10問の2択・4択に答えるだけ。数分で終わります。勉強の時間を新しく作らせるつもりはなくて、ドリルを開く前の助走として、ゲームのつもりで触れるものにしたかった。修行という名前にしたのは、そのほうが息子が乗ってくれそうだったからです。実際、乗りました。
修行は3つあります。
- どっちで かく? … 「ぱんを たべる」「かぜが ふく」のように文の中に置かれた言葉を見て、カタカナかひらがなかを選びます。言葉だけを単体で見せても、どちらで書くかは決めようがないので、必ず文の形にしてあります
- カタカナに なおす … ひらがなを見て、正しいカタカナ表記を4つから選びます
- にた字 みつけ … シとツ、ソとン、クとワ、スとヌ、ケとク、ロとコを大きく出して、どちらかを当てます
最初の2つが判断の練習で、3つ目だけが従来の書き取りに近い内容になっています。
正解でも不正解でも、毎回「理由」を出すようにしました
こだわったのは、丸バツだけで終わらせないことです。「パン」を選べたら、その場で「ポルトガルから来た言葉だから」と理由が出ます。当たったときも出します。まぐれで正解した子が一番、次に落とすからです。
理由の型は4つに絞りました。外国から来た言葉(パン、ノート、ケーキ、ランドセル)、外国の国や人の名前(アメリカ、ブラジル、トム)、音や鳴き声(ワンワン、ガタンゴトン、ザーザー)、生き物の名前(カブトムシ、タンポポ)。この4つを言えるようになれば、初めて見る言葉でも自分で見当がつきます。あの朝の僕が言えなかったやつです。
最後には、まちがえた言葉と理由の一覧が出ます。点数より、こっちのほうが親には役に立ちました。何点だったかは3秒で忘れますが、「うちの子は生き物の名前で落ちる」と分かれば、図鑑を開いたときに一言添えられます。バグ票と同じで、落ちた事実より、どの条件で落ちたかが残っているほうが次に使えます。
無料・登録不要・インストール不要で使えます
子ども向けのアプリを探すとき、いちばん面倒なのが会員登録とインストールだと思います。そこは全部なくしました。
- 無料 … 課金も、時間制限もありません
- 登録不要 … アカウントもメールアドレスも要りません
- インストール不要 … ブラウザでURLを開くだけです。スマホ・タブレット・パソコンのどれでも動きます
- 成績はサーバーに送っていません … 出題も採点も、その端末の中だけで動いています
- 広告なし … 途中で別の画面に飛ばされることもありません
正直に書くと、日本語の表記は4つのルールに収まりません
ここは隠さず書いておきます。カタカナの表記には、ルールから外れるものがたくさんあります。外来語でも慣用でひらがなや漢字を使う言葉はあるし、大人でも書き方が割れる言葉はある。それを全部入れると、10問で終わる練習にはなりませんでした。
なので「カタカナ修行」は、正解を保証する辞書ではありません。カタカナで書く言葉を見たときに、「あ、これは外から来た言葉だ」と一回考える癖をつけるための練習台です。例外にぶつかったときは、そこで大人が一緒に調べればいい。というより、そこが一番おいしい場面だと思っています。
以前、漢字にふりがなをふるツールを作ったときも同じことを考えました。親が全部教えてあげる仕組みにすると、親の手が空くまで子どもが待つことになる。それより、自分で触って自分で確かめられるほうが、たぶん本人も面白い。
教えられなかった問題は、道具に肩代わりしてもらっていい
あの日曜の朝、僕は息子の質問に答えられませんでした。親としては情けない場面ですが、答えられなかったおかげで、つまずきの正体が字ではないと気付けたので、結果的には得をしています。
カタカナは、書けるようになって終わりではありません。どの言葉をカタカナで書くのかが分かって、やっと使えるようになる。大人はそれを何十年もかけて感覚で身につけたので、説明できないだけなんですよね。説明できないものを、気合いで教えようとしなくていい。
ドリルの前に3分、「これ、どっちで かく?」だけでもやってみてください。バツがついていたのは字ではなかった、と分かるかもしれません。