リビングの壁に、実家からもらったアナログ時計を掛けています。息子が小学1年生の秋、宿題の途中で「いま なんじ?」と聞いてきたので、自分で見てごらん、と返しました。息子は壁を見上げて、迷いなく答えます。
「3時10分」
時計は3時50分でした。
すぐに直そうとして、やめました。なぜそう読んだのか聞くと、長い針が10を指しているから10分だと言うんです。理屈は通っています。10と書いてある場所を10と読んだだけで、教わったことを素直に当てはめている。おかしいのは息子ではなく、同じ数字が「時」にも「分」にも化ける、あの文字盤のほうでした。
アナログ時計が読めないのは、数字が読めないからではありません
文字盤の3は、短い針が指せば3時、長い針が指せば15分になります。同じ場所に、まったく別のルールが2つ乗っている。大人はそれを無意識に切り替えていますが、切り替えていること自体を忘れているので、子どもに聞かれても言葉にできません。
しかもうちの生活は、ほとんどデジタルです。電子レンジもテレビもスマホも、数字がそのまま出てきます。息子がアナログ時計と向き合うのは、学校の授業と、この壁掛け時計の前くらいでした。読めなくて当たり前だったな、と後から思いました。
同じ画面に2つの仕様が同居している。QAが一番揉めるやつです
仕事でテストをしていると、これに近い場面によく出くわします。ひとつの画面の中に解釈の違う仕様が同居していて、開発は仕様どおりに作り、ユーザーは別のルールで読む。どちらも間違っていないのに、結果だけがずれる。原因を探すと、たいてい「どちらの規則で読むかがどこにも書いていない」ところに行き着きます。
息子の「3時10分」も、まさにそれでした。バツをつけて終わらせると、次も同じ読み方をします。落ちる条件がはっきりしているなら、そこだけを何度も試せる場所を作ればいい。そう思って、ツールを作りました。
学校で習う順番のまま、5段階に分けました
作ったのは、時計アプリの「とけい修行」。アナログ時計の読み方だけを練習する、無料のWebアプリです。
なんいど(難易度)は、次の順に上がります。
- はり1本だけ … 短い針だけ/長い針だけを見る練習。まず1本ずつ切り分けます
- ちょうどの じかん … 3時・8時など
- 30ぷんきざみ … 「〇時はん」も読めるように
- 5ふんきざみ … ここが最初の山です
- 1ぷんきざみ … すべての分
学校で進む順番と同じにしてあるので、今習っているところだけを選べます。いきなり1分きざみを出されると、時計そのものが嫌いになります。1回10問で、数分あれば終わります。
慣れるまでは、文字盤の外側に0・5・10…と分の数字を出せるようにしました(「とけいに ふんを ひょうじする」のチェックです)。補助輪のつもりです。外して読めるようになったら、家の壁の時計も読めます。
読む修行と、探す修行は別の力でした
といかたは2つあります。「いま なんじ?」は時計を見て時刻を答えるもの。「とけいは どれ?」は逆に、3時50分と言われて4つの時計から探すものです。同じ時刻でも、この2つは使う力が違いました。読めるのに探せない、という状態が実際に起きます。
選択肢には、つまずきやすい読み方をわざと混ぜてあります。針を入れかえた時刻、長い針の数字をそのまま分にした時刻。あの日の息子の答えも、ちゃんと選択肢に入っています。選んだ瞬間に正しい時刻と、なぜそう間違えたのか(「はりの とりちがえ」「すう字を そのまま ぷんに した」)がその場で出ます。
答えに詰まったときは「ヒントを 見る」を押すと、どちらの針をどう読むかだけを教えてくれます。答えそのものは出しません。
無料・登録不要・インストール不要で使えます
子ども向けのとけいアプリを探すとき、いちばん面倒なのが会員登録とインストールだと思います。そこは全部なくしました。
- 無料 … 課金も、時間制限もありません
- 登録不要 … アカウントもメールアドレスも要りません
- インストール不要 … ブラウザでURLを開くだけです。スマホ・タブレット・パソコンのどれでも動きます
- 成績はサーバーに送っていません … 出題も採点も、その端末の中だけで動いています
- 広告なし … 途中で別の画面に飛ばされることもありません
「時計 読み方 練習」で検索して出てくるプリントは、印刷して丸つけまでが親の仕事になります。こちらは開けばすぐ始まって、丸つけも要りません。すきま時間に1セット、くらいの気持ちで使えます。
正直に書くと、これで時計が好きになるわけではありません
4択なので、当てずっぽうでも当たります。それは分かったうえで、答え合わせのたびに読み方を出すことにしました。まぐれで当たった子が、次にいちばん落ちるからです。
それと、本当は家の見える場所にアナログ時計を掛けるほうが早いと思っています。「あと5分でごはん」と言われて、自分で確かめる回数にはかないません。このアプリは、その前の助走です。
間違いではなく、どこで落ちたかを見てあげたい
10問終わると星と点数が出ます。ただ、家で見てほしいのは点数のほうではありません。どのなんいどで崩れたかです。
うちの息子は「ちょうど」と「30ぷん」は落とさず、5ふんきざみで急に崩れました。なんいどを選び直して同じところをもう1回やれば、そこが本当に弱いのかはすぐ分かります。それが分かってからは、時計の前で「長い針、いくつ動いた?」と聞き方を変えられるようになりました。点数は3秒で忘れますが、どこで落ちたかは次に使えます。
あの日、僕は「ちがうよ、3時50分だよ」と言わずに済みました。言っていたら、息子の頭の中にあった筋の通った理屈ごと、なかったことにしていたと思います。
子どもが変な答えを出したとき、たいていその子なりの規則があります。時計に限らず、それを先に聞いてみると、直す場所が変わるかもしれません。